[セミナー]
強度近視矯正眼鏡の処方調製における留意点
日本眼鏡教育研究所 岡本隆博
はじめに
10Dを越える強度近視の人は、非常に少ない。
そういうかたの眼鏡を調製するのは、
普通の眼鏡店なら、年間で指折り数えられる程度であろう。
阪神大震災のときに、対策が後手後手にまわったことを批判された
当時の村山首相は「なにぶん、初めてのことじゃから……」と言い訳をしたという。
そういう例を取るまでもなく、
とにかく、たまにしか経験しないことに関しては、
それにどう対処していくかということは実際に難しく、
スムーズに間違わずに行なっていけるほうがむしろ不思議なくらいである。
しかし、強度近視のお客さんを避けて通るわけにはいかないし、
単に「なんとか対応しよう」という消極的な姿勢ではなく、
「なんとかなるさ」というノー天気さでもなく、
そういうかたには是非とも
自店で十分ご満足のいく眼鏡を調製し提供しようという意気を持っていただき、
実際にそれに積極的に取り組んでいただきたいし、
そのための知識や技術や商品などの準備をしていただきたいと思う。
1.調製の順序
まず、眼鏡調製の順序から述べる。
強度近視のお客様の場合には、自店へは初回のご来店のかたでも、
屈折検査をする前から、前眼鏡の度数を見れば、
そのかたが強度近視であると分かる。
たまに、コンタクトを使用しておられて、
それを外すまでは、度数の見当が付かなくて、
裸眼になってもらって、オートレフで測って初めて強度近視であるとわかった、
というようなこともあるが、たいていの場合には、初めからわかっているものである。
そういう強度近視のかたの眼鏡を調製する順序としては、次のようにするのが望ましい。
1)枠の選定
2)フィッティング
3)測定処方
4)玉入れ加工
5)フィッティング
6)お渡し時の説明
7)アフターケアー
ここで留意をしていただきたいのは、
測定処方よりも、枠の選定とフィッティングが先に来ている点である。
この理由は、そうすることにより、
屈折検査や装用テストにおける角膜頂点間距離(以下、VDと略す)
が確定できるので具合がよいわけである。
2.枠の選定
強度近視のお客様は
「厚みを抑えるためには小さめの枠がよい」と思っておられる。
それはたしかにそうなのだが、鼻幅のことまで理解している人は少ない。
だから、こちらが主導権を持って、
レンズが薄く軽くなる「ウスカル枠」(玉型が46mm以下で、鼻幅が21mm以上)
をお勧めするように心がけるのがよい。
ウスカル枠をお勧めするときに留意すべきことをいくつか挙げておく。
1)
まず、当然ではあるが、
度数が強ければ強いほど、玉型サイズは小さめにするのがよい。
たとえば、プラスチック1.67AS(非球面)の−8Dのレンズで、
50mmの楕円形で玉型の中央よりも1mm鼻側に光学中心が来た場合の、
耳側最大コバ厚を試算してみると、4.7mmにもなる。
これは実際に見るとけっこう厚い。ウズも目立つ。
ところが玉型42mmで同様の条件であれば、
耳側の最大コバ厚は3.3mmですむ。
その差は1.4mmであるが、実際のところ、この違いは大きい。
もし貴店の在庫のレンズに、それらと同じコバ厚のものがあれば、
それを見比べてみれば、玉型サイズを50mmから42mmにすることによる
厚み減少の効果の大きさがよくわかるはずである。
2)
玉型が小さいというだけではなく、
フレームPDと、装用者のPDがほぼ一致するのがよい。
玉型が小さくなればなるほど、フレーム視野が狭くなるのは当然であるが、
そうなると、瞳孔中心位置と、フレームPD(玉型の中央)との合致度合いが重要となる。
玉型の小ささによるフレーム視野の狭まりは、
フィッティングにおいてVDを短めにすることによってある程度カバーできるのだが、
それにも限度があるから、
瞳孔中心位置と玉型の中心位置をなるべく近いところにもってくることによって、
耳側または鼻側のフレーム視野が一段と狭くなってしまうことを防ぐわけである。
玉型が54とか58とかの大きさがあれば、
装用者のPDとフレームPDの合致度というのはさほど厳密に考えなくても差し支えないのだが、
玉型が小さくなればなるほど、その合致が悪いと、
外見も本人のフレーム視野も変な感じになってしまうのである。
○
実際の方法を例で示す。
まず、お客様のPDを左右別に測定し、
それがたとえばRが33mmでLが32mmとする。
すると合計65mmであるから、フレームPDが65か、
それよりもやや大きめのものを探せばよい。
フレームPDは玉型サイズと鼻幅の数値を足せば算出できるから、
上の例の場合なら、たとえば次のような枠を探せばよいのである。
46□20 44□23 42□24 40□26 38□28
この場合、近視の度数が強ければ強いほど、
玉型の小さなものの方が好ましいことは改めて言うまでもない。
しかし、こういうサイズの枠は、
ウスカルの原理原則を理解して、そのつもりで品揃えをしておかないと、
そう簡単に、その度数でそのPDの人にうまく適合するウスカル枠は……
特に究極のウスカル枠(玉型が42mm以下で鼻幅が24mm以上)は、
なかなか見つからないものである。
「強度近視のお客さんが来れば、高屈折のレンズを小さめの枠に入れて販売すればよい。
小さめの枠なんて、昨今掃いて捨てるほどあるから、別に心配はない」
とタカをくくっていてはダメである。
なぜなら、そういう不用意なことでは、
鼻幅が21を越えて玉型が46以下というようなウスカルタイプの枠が自然に揃う店はほとんどなく、
そうであれば、たいていの場合には、たとえ高屈折率のレンズを使っても、
耳側か鼻側かの少なくともどちらか一方がよけいな厚さを持ってしまって、外見上好ましくないという、
お客様にとっても不本意なメガネを調製販売することになってしまうおそれが多分にあるからである。
8D以上の相当に強度な人に、レンズの薄さで満足してもらうためには、
ウスカル枠をぜひとも品揃えをしておきたいのだが、
その場合に重要なことは、玉型サイズが42前後のなるべく小さなもので、
鼻幅を21以上30以下で、いろいろに持ち、
いろんなPDに対応できるようにしておくことである。
また、ウスカル枠でメガネを作れば、
中等度近視の人には、コバ厚が極限にまで薄くなる、
非常に外見の良いものを提供できるのである。
ウスカル枠の有効性が如実に出る、分かりやすい例を挙げてみよう。
50□16 44□28
この二つは、どちらも耳幅(右レンズの耳側から左レンズの耳側までの幅)
は116mmで同じであるが、鼻幅は全く違う。
ここにたとえばプラスチック1.60球面設計で−6.00DのレンズをPD各34mmで入れたとする。
すると、耳側の厚みは、どちらも3.1mmで同じであるが、鼻側の厚みはまったく違ってくる。
ウスカル枠44□28では2.3mmにまで薄くなるのだが、
やや小さめの枠50□16だと、なんと3.7mmとなって、耳側よりも厚くなってしまうのである。
端的に言えば、こういうのがウスカル枠の有効性であり、
この場合、50□16の方では、44□28に比べて、鼻側にまったく無駄で不愉快な厚みと重さを持ち、
しかも、正面から装用者を見た場合に瞳孔中心がリムの外側に寄って外見上も好ましくないと言う
デメリットを持つだけで、何のメリットも持たないわけである。
なお、フレームPDが広いとき(装用者のPDが広いとき)ほど、
ウスカル枠の効果は増すのだということも覚えておいてほしい。
そして、ウスカル枠を使えば、最強度でなければ、
屈折率が1.6のプラスチックや1.7のガラスなどの、比較的値段の安いレンズでも、
かなりの薄化が実現できるのである。
たとえば、同じ近視のレンズを同じPDで、
48□18の枠に入れた場合と52□18の枠に入れた場合の、それぞれの耳側の厚みは、
後者の方がけっこう厚くなるということについては、
眼鏡技術者であれば初歩的知識であり、一般ユーザーでも、知っている人が多い。
だから、強度近視の場合の枠(玉型サイズ)は小さめの物が良い、
というのは、ユーザーでも知っている「常識」と言ってよい。
ところが上に例示した鼻側の厚みの違いについては、
これまであまり語られてこなかったし、見過ごされがちであった。
ウスカル枠の基本的な理念は、この鼻側の無駄な厚みと重さを取り除くことだとも言える。
○
強度近視の場合に鼻幅を広くとった枠を用いると、次のようなメリットがある。
1)
枠入れしたレンズの鼻側の厚みがたいしたことがなくなるので、
外見が向上し、余分な部分がなくなる分だけ軽くなる。
(鼻側視野の狭まりは、実際上問題がない)
2)
非常に強度のマイナスレンズを入れて、
鼻側の厚みが結構なものになったとしても、クリングスの調整に困らない。
3)
やや小さめの枠で鼻幅も狭いと、
えてして瞳孔中心位置が玉型の中央よりも外に位置してしまい、
外見上好ましくないと言えるが、
鼻幅が広ければ耳幅が同じでもフレームPDが広がるから、
そういう外見になる蓋然性は低くなる。
たとえば、
ウスカルの考え方で商品化された、小田幸のOK−017と018であれば、
フレームPDが66.5なので、PDが66までの人なら、そういう外見にはならないわけである。
4)
鼻幅が十分に広くないと、鼻根が太めの人の場合に、短いVDに設定ができない場合がある。
しかし、金属枠で鼻幅が25mm前後あれば、
そういう場合でも、VDを短く設定できる。(短いVDのメリットについては後述)
○
この項の最後で誤解のないように念のために述べておくが、
私は中〜強度の近視の場合には、
誰にでもレンズが薄くなることを狙ったウスカル型の枠をお勧めすればよいと言っているのではない。
Aの枠とBの枠を比べた場合に、
厚みの点ではAよりもBの方が不利だが、スタイルの点では断然Bが好き、
ということでBを選ばれるのであれば、それに異をとなえる必要はさらさらないし、
なかには、そこそこ強い近視なのにレンズの厚みなどまったく気にしない人も
中年男性などでたまにおられることも確かである。
そういうかたには、お顔に合うバランスの大きさの枠で
お好きなものを選んでいただいたらよいのである。
なお、
全体に細くて非常に軽い枠に強度近視のレンズを入れた場合は、
重さのバランスが前に寄りすぎてずり落ちやすくなったり、
そのズレを止めるために細いモダンを強めに抱き込んだりして
痛みを訴えられるということにもなりかねないので、軽すぎる枠は要注意である。
特に、ガラスレンズを使って、
さほど小さくない枠に強度近視のレンズを入れる場合には、
軽過ぎる枠はやめておくのが無難である。
なお、累進の場合には、頂間距離を12mm以下にするという前提で、
天地が30mmあればOKである。
3.フィッティング
3−1 頂間距離(VD)は短めに
強度近視のメガネは、
例外的な場合以外は、VDを短めに設定したい。
その理由を以下に述べる。
●1. 矯正効果の増大
強度近視の眼鏡矯正においては、
レンズの厚みや重さや像の歪曲を減らすなどの目的で、
やむを得ず低矯正とする場合が多いのであるが、
VDを極力短くフィッティングすることにより、ややましな視力を得ることができるようになる。
あるいは、言い換えると、
短いVDにより、やや弱めの度数で希望視力を得ることができるのである。
VDの違いにより、実際にどの程度の矯正効果の変化が得られるのかということは、
次の簡易式で実用的に十分な値が出てくる。
△D=D2×h÷1000
△D:矯正効果の変化D値
D:そのレンズのD値
h:VDの変化値(mm)
たとえば、
−8Dのレンズが、標準的なVDの12mmよりも3mm短くなって9mmになったとすると、
△D=8×8×3÷1000=0.192
となって、約0.2Dほどの矯正効果の増加が得られるのである。
●2. 網膜像の拡大
VDが短ければ短いほど、網膜像は大きくなる。
では、それはどのくらいの割合で大きくなるのか、といえば、
いろんな参考書によくある次の図でわかる。
これは屈折異常が完全に屈折性のものである場合のグラフであるが、
軸性の屈折異常あっても、(強度近視は、みな軸性だと言える)
このグラフが絶対的な数値を表すものではなく、
VDが変わるとどのくらいの変化があるのかという
相対的な網膜像の大きさの変化を示してあるものとして見るなら、これを利用しても差し支えない。
たとえば、−10DでVDが12mmのときと9mmのときでは、像の縮小率が約3%ほど違う。
これは度数に大体比例するから、
△x=D×h÷10
△x:網膜像の大きさの変化率(%)
D:レンズの度数
h:VDの変化距離(mm)
と覚えておくとよい。たとば8Dで3mm違えば、8×3÷10=2.4となり、2.4%となる。
2.4%と聞くとわずかのように感じるかも知れないが、実際には意外に大きい。
●3. 収差の感じ方の減少
同じ角度分視線を斜めに振った場合、
視線の通る位置は、VDが短いほど、光学中心に近いところになる。
だから歪曲や非点収差は少なめですむ。
これは、VDを短めに取ったときの距離感の変化の少なさとあいまって、
比較的自然な空間視をもたらす。
●4. 乱視による網膜像の歪みの縮小
眼鏡レンズによる乱視矯正では、
各経線における像の縮小率の差から、
網膜像の形の変化が生じるが、
これもVDが短い方が少なくなるので、
短くVDを設定することにより、
ものの形を実態に近く捉えることができる。
●5. 外見上の目の大きさ
VDを短くすればするほど、
他人から見られる目の大きさは、
実物の大きさに近くなる。
●6. 顔の輪郭線
VDを短くする方が、
レンズのプリズム作用による
外見上の顔の輪郭線の入り込みが
少なくなる(見えなくなる)。
3−2 そり角・前傾角・水平性等をシビアに
度数が強い上に、
非球面レンズを使うことが多くなると、そり角や前傾角はシビアになってくる。
足下がおかしいという訴えがあれば、前傾角を少し強めにするとうまくいく場合がある。
また、強度近視や中等度遠視の遠近累進では、
レンズ光軸が若干の開散をしているせいで近見の見えにくさが生じることがある。
その場合には、やや輻輳ぎみのそり角に調整すればよい。
そして、そり角や前傾角に関しては、
本来どうあるべきかということの他に、以前のメガネとの差がポイントになってくる。
また、正面から見た水平性は、
強度になればなるほどわずかの傾きでも上下プリズム誤差が生じるので要注意である。
それから、リムカーブが強くて、
このままでは浅いカーブのレンズを入れるには適さないと思ったら、
そのカーブを浅めに調整してから腕の開きなどを決めていくのがよいのだが、
これについては加工のところで、また述べる。
4.屈折検査と処方上の注意
4−1 テスト枠の選択
屈折検査を初めからテスト枠で行なう場合はもちろんのこと、
屈折検査をフォロプターなどの検眼器で行なうにしても、
装用テストではテスト枠が必要であり、
そこでの度数決定においては、VDが大いに問題となってくる。
その場合のテスト枠は、
できればPDを左右別に設定でき、VDを調整できるものが望ましいが、
それでは重くなって具合が悪いということであれば、
ハセガワビコーの#547のテストフレームのような、
鼻当てを左右別に広さを設定できるものを使えば、
左右のPDの2mm程度の差にまでなら対応できる。
さらに、腕の前傾角度を左右別にアナログ的に調整できるようになっていて、
正面からみて水平になった状態で屈折検査ができるものがよいが、
そういうのが無ければ、そのように改造すればよい。
4−2 球面レンズをどこに入れるか
テスト枠を使って強度近視の屈折検査をする場合、
球面レンズをどのポケットに入れるか、ということが重要である。
たとえば、よく用いられているテスト枠で、
ハセガワビコーのレンズつかみを回転させることが可能なタイプのものにおいては、
眼に一番近いレンズポケットと、そのすぐ前のレンズポケットでは、約7mmものVD差がある。
そうすると、球面レンズをどちらのポケットに入れるかということにより生じる矯正効果の差は、
およそ下記の通りになる。これは暗記しておくのがよい。
6〜7D 約 0.25D
8〜9D 約 0.50D
10D 約 0.75D
12D 約 1.00D
そして、検眼の最後で処方度数を決めるときには、
すでに選ばれている枠におけるVDに近い状態で
テスト枠でのレンズのVDを設定して決めないといけない。
これが眼科処方の場合だと、
一応建前としては、何も断りがなければ、
12mmのVDにおける処方度数であるということになってはいるが、
実際のところは分からない。
ぶ厚いマイナスの球面レンズは、
テスト枠のいちばん眼に近いポケットに収めて測定されることが多いので、
実際には12mmよりも短いVDでの処方となっていることも多いと思う。
そういう点も、眼科処方で眼鏡を調製する場合のひとつの問題点だと言えよう。
4−3 上斜位の測定
レンズがプラスでもマイナスでも、
強度の場合には、レンズの光学中心と眼の視線との位置関係の不適合から、
光学的斜位が生じることが多い。
特に上斜位の場合にそのことに注意を払うべきである。
たとえば、検眼器での眼位測定であれば、
左右共にピンホールで視標を見させて、左右の孔を通した視野がきっちり重なるようにして、
そのままで偏光視標などで斜位を見ていくという方法をとれば、
どんなに強度であっても、左右どちらも、
レンズの光学中心からずれたところで見ることによるプリズム誤差の影響を受けるがほとんどないので、
いわゆる光学的な斜位を測定してしまうおそれが少なくなる。
ところが、テスト枠では、
仮に正面から見て枠と眼の位置関係に傾きを認めなくとも、
強度の球面レンズが入った状態では、
レンズの光学中心と眼の位置の合致度に今ひとつ確信が持てないから、
そのまま、弱度のときと同様に斜位(特に上斜位)を測定するのは危なっかしい。
それで、その場合には、
裸眼による自覚的カバーテストを行なって、斜位のあるなしと、その程度を知っておきたい。
その方法としては、テスト枠に何もレンズを入れないで装用させて、
5mほど先のぼやけた光点を見させて、遮眼子などにより交互遮閉をして、
光点の動きを尋ねて、その動きを止めるプリズムを枠に入れて、
斜位(または斜視)の方向や程度を知る。
(他覚のカバーテストでは1△程度の上斜位はわかりにくい)
この検査では、
最初は検者の言わんとするところを被検者が理解しにくく、
答えに要領を得ないことが往々にしてある。
その場合には、右眼に3△程度のプリズムをベイスダウンで入れて、
その動きを見させ、それから次にまったくの裸眼で行なえばよい。
4−4 検査の手順
検査の手順としては、下記のように進めていくとよい。
単眼(片眼遮蔽)屈折検査
→ 眼位測定(その結果、P矯正の必要があれば、とりあえずのP矯正をしておく)
→ 両眼開放屈折検査(各眼別一次矯正→両眼調節バランステスト→両眼調節緩解テスト)
→ 近見のチェック → 装用テスト→ 処方度数選定
4−5 処方での注意
装用テストのときの頂間距離(VD)に十分留意をすることが肝要である。
VDはレンズの光学的な面とフレーム視野の点からして、
基本的には(マツ毛に触れない限り)短い方がよいのだが、
初期の老視の人で、強度マイナスレンズの調節効果を利用して遠近累進を使わずにすますというのであれば、
VDはやや長めの方がその効果は大きくなる。
また、一般に、強度になればなるほど、不同視の矯正にも耐えやすいので、
眼鏡処方の左右差は2Dまで、というような公式にとらわれずに、
とりあえず左右の調節バランス(雲霧状態での視力バランス)
の取れる度数でためしてみることが必要である。
あるいは、老視がある場合には、
前眼鏡の度数などの条件によっては適度なモノビジョン効果をもたらす処方もよい。
5.レンズ選び
10Dを越えるような強度近視なら
厚みの点でプラスチックよりもガラスが選ばれることが多いと思うが、
それ以下でも、常にガラスも選択肢に入れておきたい。
ガラスレンズとプスチックレンズを比べた場合、
同程度の価格なら、ガラスレンズの方が薄くできるし、もちろん耐用年数も長い。
ガラスの重さについては、枠が十分に小さければ実用上問題にはならない。
私の場合には3〜4Dでも、ガラスをけっこう勧めて売る。
そうすると割安で非常にレンズの薄いメガネが出来たと喜ばれることが多い。
ガラスレンズのことをお客さんに言うと
「まだガラスレンズなんて、あったのですか」という人もいて、
いかに今どきの世間のメガネ店がプラスチックばかり勧めて売っているかということがよくわかる。
ガラスレンズのことは何も言わずに
当然のようにプラスチックを売る、というのではなしに、
双方の長短を説明して選んでいただくようにするのがよいと思う。
ちなみに、
たとえば、小田幸のOK−017の枠に、PD64で−6Dのレンズを入れるとする。
レンズはできるだけ薄くなるのがよいが、
値段はあまり高くならない方がよい、という要望があったとする。
ガラスなら、1.8で耳側最大コバ厚3.1mmとなるが、
プラスチックで同じ程度の厚みのメガネにしようと思うと、1.74非球面が必要となる。
1.8ガラスと1.74非球面プラスチックの価格はというと、後者は前者よりも5割ほど高くなる。
これは逆に言うと、
プラスチックを勧めた方が、同じ厚みならレンズの売上げを上げることができ、
キズも早くつくから買い換え時期が早まって好都合だ、とも言えるのだが、
どちらの考え方でレンズを勧めるかは、読者諸氏のご自由である。
なお、この場合なら重さは、ガラスを使っても、枠ともで20g以下ですむ。
私は、中等度以上の近視の場合、
かならず事前にレンズの厚みを予測してお伝えする習慣をつけておくのがよいと思う。
その方法としては、ネットのソフトを利用する方法や、
レンズ断面図を利用する方法、コバ厚一覧表を利用する方法などがあるが、
ネットによる方法は多少の手間がかかるのでつい省略しがちである。
常に事前に厚み予測をするには、
ネットを使わなくても簡単に概算の数値を出せるようにしておきたい。
ただ、コバ厚の一覧表で見るのならば、
レンズガイドに書いてあるようなレンズ径の刻みが粗くて実用になりにくいものではなく、
もっと刻みが細かい(たとえば半径で2mm刻み)ものを用意しておきたい。
それはレンズメーカーに依頼すれば作製してくれるはずである。
(私も、自店がメインに扱っているメーカーに依頼して、それを作ってもらったのだが、
それはウスカル会の会員のためのクローズドホームページの
『レンズの厚み』のページにアップしてある)
6.レンズ加工
強度近視のレンズを枠入れ加工する場合に、いくつかの留意点がある。
まず、枠のカーブをどのように調整するかということがある。
強度マイナスレンズは、当然ながらレンズの第一面カーブはきわめて浅い。
相当の度数になれば、まったくフラット(ゼロカーブ)となっていることもある。
そして、枠のカーブはというと、
これはいろいろであるが、強いものなら4カーブ程度はついていよう。
しかし、あえてヤゲンのカーブをフラット気味にはせずに、
下図のAのようなヤゲンをつけたら、鼻側と耳側では上縁や下縁に比べてヤゲン位置が後ろに下がるので、
正面やや斜めの方向から見た場合のウズの出方がBよりも少なめですむという利点がある。
それゆえ、よほどリムカーブが強くない限り、
そして、玉型サイズが小さめであれば、
レンズに付けるヤゲンのカーブは基本的に元のままのリムカーブに会わせるという方法をとっても、
まず問題はない。
そして、レンズの上縁と下縁のヤゲンのつけかたであるが、
これはもう上前下後のヤゲンが圧倒的に有利である。
下図のCは上前下後、Dは両方前、Eは両方後、のヤゲンである。
これらを正面あるいは正面やや上から他人が見た場合に、
どう見えるかということを比べてみよう。
(正面やや下から相手に見られるということは、まずない。
装用者がややうつむいた場合には、観察者は正面のかなり上からレンズを見ることになる)
まず、リムの上縁あたりでは、どうか。
CとDでは、ヤゲン部分のリムからのはみ出しが少ないが、
Eではそれが多くなって見栄えが悪くなるから、Eはダメである。
次に、リムの下縁ではどうか。
CとEでは、Dよりもウズが減ってすっきりした外見になるので、Dはダメである。
そうするとCがベストであると分かる。
これは実際に同じ度数で上前下後のヤゲンをつけたレンズと、
そうでないヤゲンのレンズとを一つの枠の左右に入れて比べてみていただければ一目瞭然なのである。
そして、できれば、この比較見本を作っておいてお客さんに説明したら、
自店がいかにきめのこまかい技術を
強度近視のメガネのために発揮しているのかということがよくわかってもらえるのである。
まとめ
強度近視のメガネの調製に関して、この稿で述べたことの中から重要なことを、いま一度書いておく。
・検査や処方よりも枠選びとフィッティングを先にすませるのがよい。
・枠は、玉型サイズが46以下で鼻幅が21以上の「ウスカル枠」がよく、
特に10D以上にもなる場合には、玉型が42以下で鼻幅が24以上の「究極のウスカル枠」が望ましい。
・フレームの選定にあたっては、フレームPDと装用者のPDの合致度に留意する。
・フィッティングにおいては、頂間距離は短かめに設定するのがよい。
・屈折検査のときにも頂間距離に十分留意する。
・上斜位の測定は、裸眼の自覚的カバーテストを利用する。
・レンズはマイナス中等度からガラスも考える。
・ヤゲンは、上前下後のヤゲンを付けたい。