総合TOP  大阪フィリア
修行、そして決着へ
(2007/1/22)
さて、アイトピア奮戦記シリーズははやくも、
第6回を迎えてしまいました。大変です。
*「別に大変じゃないから。しかし6回とはよく続いたね」

前回のラストでこの私、岡本真行は、元アート引越センターの
経営をされていた藤本健二氏と運命的な出会いを果たし、
三ヶ月に一回開かれるという異業種交流会・「いやし会」にて、
いろいろとビジネスの勉強をさせていただけることとなったのでした。
*「なんといってもまだ岡本さんは、その時点で23歳かそこらだからね。
まだまだ勉強するべきことが多すぎて、その前にビジネスのお客さん集めで大成功だなんてとても無理なことだよね」

そうですね。ビジネスにおいて『お客さま集め』とは、
最も難しいスキルのひとつとしてチベットの山奥に、その秘法が語り伝えられています。
そのような大それたものを、20代にして手に入れてしまおうとは、まさしく神をも恐れぬ所行と…
*「三文劇画風の芝居口上はいいから、それで結局その‘師匠との出会い’から、
アイトピアにお客さんが集まってもちなおすまでに、どのくらいの月日がかかったの?」

そうですね。〔考え込む〕 ざっと6ヶ月でしょうか。
*「早ッ!!?」

そのときまでに私は、すでにお客さま集めのためのアイデアを10以上も思いついて、練り上げておりましたからね。
あとは取捨選択と、ひとひねりのアレンジを入れる、アイデアのスパイスがあればもう万全という状態でした。
そしてそこに至るまでの、私の6ヶ月間の修行は過酷をきわめたのです。

〜藤本氏と出会ってほどなく開催された「いやし会」にて〜

私「いや〜 今日はこの私、岡本真行に、‘いやし会’のオープニングで『大阪梅田の地図』のお話をさせていただけますとは光栄の至りです。
ギッチリと資料をまとめてきて、密度の濃い講演タイムにしたいと思っていますですはい」
藤本氏「とりあえず岡本さんは、講演ははじめてみたいだから、
講演時間を20分程度にして、伝えたい内容を絞って簡潔にまとめるといいと思うよ。
前もってそう言っておいたと思うけど」
私「ゲッ!? そういえばそうお聞きしたような気もしますが、
やはりどこがどういうことかという各所のポイントは、正確を期して詳しくお話しする必要が… 云々」
藤本氏「まあとにかく、頑張ってみてください。若いうちから、いろいろと経験をしておいたほうが、あとあとためになりますから」

*「懐の広い人だね。岡本さんが初回に大失敗する確率も計算に入れて、
それでも最初からいきなり講演の機会を用意してくださったんだね〔しみじみ〕」
そうして私は、『簡潔にまとめたほうがいい』という藤本氏のアドバイスとはうらはらに、
ずいぶんと内容を濃くして詰め込んだお話を20分間、およそ二十数名の出席者さんたちの前で延々と話させていただいたのでした。

出席者の人「う〜ん、岡本さんだったよね。お話はとても暖かい内容だったんだけど、
なんだか話されてる表情とかしゃべり方が硬くて、ちょっと違和感があったような気がするんだけど」
私「ギクッ! そう、そうですね。20分という時間ではやはり、
ポイントがまとめきれずにちょっとばかり散漫な話題運びとなったきらいがあり…〔あたふた〕
*「事前にアドバイスもらってたのにそこでつまづくだなんて、どういう料簡なんだろう…〔呆然〕」
そ、それはですね… どういうりょうけんも、こういうりょうけんもございません。
要するに私は、自分のことを正しく伝えるためには、きちんと詳しく自身のとった行動や考えを並べて、
全部揃えて視聴者に見せなければならないと考えていたのですよ。
それ以外の方法というか、やりかたを持ち合わせていなかったのです。

*「自身のとった行動や考えを、並べて全部揃えて視聴者に見せる? それって普通の考えなんじゃないの?」
いいえ、そうではなかったのです。藤本氏はのちに言いました。
藤本氏「ぼくはね。講演で必ず心がけるようにしていることは、
『自分の一番言いたいことを、言わないようにして講演する』ということなんだよね。これがすごく難しいことなんだけど」

*「どういうこと?」
え〜とですね。ここでいう“言いたいこと”というのは、自分自身にとって最も思い入れのある、こだわりのある部分、ということですね。
長年努力して身につけた、専門家ならではの難解な知見や発見ほど、まっさきに相手に向けて伝えたいと思うもの。
そこを‘あえて削る’ということは……

*「‘自分だけのこだわり’の部分が抜けるってことだから、
もしかして‘自分の都合よりも相手の立場に立った話の組み立て’ができるようになる、ってことなのかな?」

そういうことですね。
そこで私に、早くも“気づき”があったのです。
それはこれからのお店の、広報目的の文章づくりや経営姿勢そのものにも関わる、重大なビジネスの有用ポイントだったのです。
自分の都合よりも、相手の都合を先に考えて話を組み立てる。
これができれば、誰からも注目される広報文や講演やビジネストークのできる技術を身につけたと言っても、過言ではないのです。

*「相手の都合というか、立場に立ったビジネストークか。それって言うのは簡単だけど、
実際に自分でやってみるとなるとなかなかできないもので、そう簡単に身につけられる能力とはとても…
ってもしかして、それを身につけるための物事の順序ってのが、いま言った……」
はい、そうなんですよね。こういう難しいことを実現するには、とにかく順番というのがとても大事で、
まず行うべきことが“自分が仕事に対して、一番こだわっているポイント”をいったん外して話をしてみる。
これだったのです。

お店でメガネをお客さまに説明するとき、まず最初に言いたくなるのが、そのメガネの機能面のことです。
「この蝶番は、‘一個智スパルタ’といって、一体成形構造になっていまして…。
こことここが普通のメガネでは分離しているところ、このメガネは一体型にして製造していますので…あーだこーだ」とか、
「この強度近視メガネ、鼻幅を広くして耳幅を狭くしていますので、
レンズのフチがうすく、レンズも軽くなる仕組みになっていますので…あーだこーだ」とか、
とにかくこちらサイドの情報を伝えたがるという状況になってあらわれますよね。

*「それを、‘こちらの一番のこだわり’を外した説明に直してみると……」
「お客さまは、メガネが壊れるときにここの、レンズ部分の横のネジ止めのところが真っ先荷に取れてしまうのを気にされているのですね。
でしたら、こちらのメガネは部品と部品の取れが起こらずに、ネジ止め部での壊れが起こらないというとてもおすすめのメガネになっています。理由は…云々」
「お客さまは、強度近視で普通のメガネをかけたとき、‘外から見て目が小さくなること’と、
‘メガネレンズを外から、斜めの角度から見たところに出るウズのグルグル’と、
‘メガネをかけた顔を正面から見られたとき、レンズの横部分に顔の輪郭線が入り込んで見えてしまう’ということを
気になさっていると思います。その点では、この『ウスカルフレーム』という、強度近視用に開発された特殊なメガネですとそれらの欠点が…云々」
というふうに変わります。

*「まず相手の都合から話題に入って、その目的上で必要になったときはじめてそこで、機能の説明もする。そういうやりかたのほうがいいってこと?」
まあその場合も、‘こちらがどれだけこだわったか’を具体的に言うのは適度に抑えて、
‘なぜお客さまの都合にいいのか’をメインテーマにして話していくとよいということになりますね。

*「でもオシャレな眼鏡のお店とかでは、『このセルロイド素材は熟成に数年かかる貴重な素材で、
産地福井の職人さんたちが工房で一本一本、丁寧に切り出して作っている逸品で、なくなったらそこまでですよ』とか、
けっこうまわりくどく‘こちら側の都合’を話しているみたいだけど?」
あ、その場合はですね。その‘まわりくどい業者側の裏話’が、お客さまからの視点で見て魅力的だったらそれでいいということなのです。
簡単に言うと、セルロイドの熟成や職人の切り出しの話は、非常に味のある、‘美味しい物語’なので、
そういったお話が『好きな人』にはウケるのです。だからその場合はそれでOKです。

*「それにそういう‘味のある美味しい話’って、もともとその商品に相当深い関心を持っている人にオススメするときに向く説明法だものね」
そう、セルロイドとかの‘美味しい眼鏡’を買うような人は、もともとそういったモノに深い関心のある、オシャレ心を持ったですから、
そういった人が主にやってくるオシャレ系のお店ではそういうやり方をとればいいのです。
ですが‘深い関心’のまだない、機能本位でモノを探している人に対してはまず、
‘相手の都合’を優先した話の組み立てをした方が注目して貰いやすくなるということですね。

そしてその後の、「いやし会」の二次会の飲み会にて……
私「それにしても今日は、ためになる体験をさせていただきましてありがとうございます。
それではこれから、ビールとお料理でもたしなみながら、私の考えたビジネス計画についていろいろとはなさせていただけますと幸いで」
藤本氏「そういえば岡本さん、あの梅田の地下街の地図の他にも、変わったプランを考えておられるとか言ってたね」
私「そうですね。まずはウキウキ計画その1.くじらのメガネ計画!
くじらのヒゲを素材として使った珍しいメガネの仕入れが可能ですので、
そのことについて書いたニューズペーパーを作成し、くじら料理のお店に張り出してもらえるように交渉しに行きます。
そのためにはそのくじら料理のお店のまわりの地図を作り、またいろいろとボランティア活動ということでがんばればきっと… 以下略」
藤本氏「なんか、かける労力の割に利益が少なすぎるような気がするんだけど…
くじらのヒゲのメガネっていうのはおもしろい商品だけど、それを売るのにはけっこう大変っていう商材だよね」
私「う〜む、商材選びがキーポイントですか。それではこういうのはどうでしょう。ウキウキ計画その2.カエルのメガネ計画!
カエルっぽく見える形のセルフレームの仕入れが可能ですので、それについて書いたニューズペーパーを作って、
カエルグッズの専門店に張らせてもらえるように…」
藤本氏「なんかさっきと同じパターンのような…(汗)
カエルの形をしたメガネってだけじゃ、ニュース性が足りない気がするんだよね。
カエルにかけさせるメガネだったらおもしろいかも知れないけど」
私「ニュース性ですか… そういう観点でも、ものを見る必要があるようですね。
それではウキウキ計画その3.のパンダのメガネ計画 というのも、いまひとつかも知れません…
さっきのカエルの形のメガネの色違いで、パンダっぽく見えるセルフレームを作ってパンダグッズ専門店に… 以下略」
藤本氏「……」

*「なにこれ、こんなのアイデアというよりはただの酔いつぶれたクダ巻きかなにかなんじゃ」
いえいえ、これらは私のアイデアの中でも、比較的スケールの小さいものを並べたにすぎません。
スケールの大きいアイデアの詳細については、いずれアイトピアにて実行するつもりですので、
ここで詳しくは申し上げられないのですが…

私「それでは藤本先生、私のとっておきのアイデアをお話ししましょう。ウキウキ計画その4.18金メガネが売れて売れて売れまくる方法!
ふつう眼鏡店の月商というのは、月に400万円売れれば万々歳といわれていますが、
これがうまくいけば、一店舗で月商4000万円を出すことも不可能ではありません。
一式20万円の18金のメガネを200本受注できれば、それで4000万円ですから。
それでそのための方法ですが、まず予備校に…… 以下略」

*「予備校って、なに??」
はてさて、それはここではシュラスコにさせていただくということで
*「それをいうならオフレコだ… しか合ってないし、かなりの機密事項のようだ……」

藤本氏「うんうん、それは成功すれば、けっこういけるかも知れないけど、
どうも風が吹けば桶屋が儲かるというか、計画が回りくどすぎて実現までにルートが遠すぎるような気がするなぁ。
岡本さんのお店は、もっと急いで、利益を出さなきゃいけないんじゃないのかな?」
私「そうですね… ではこんなのはどうでしょう。ウキウキ計画その5.犬のメガネ計画!
まずはとりあえず、通販で売っているような犬用のゴーグルと同じ性能のゴーグルを高級セル素材で手作りで試作し、
それを○○○○に持っていき、○○○○を出して○○○○して広報すれば… 以下略」

藤本氏「それはおもしろいね。僕は箕面に住んでるんだけど、
最近箕面の駅前にできたファッションビルの中にドッグリビングというレストランカフェがあって、
そこではお犬様のコース料理が8000円、人間用のコース料理が5000円だとか、
他にもお犬様用高級グッズが売られていたりとかで、とにかく信じられないような世界だそうだけど、
こんなご時世だから、犬用メガネを作ったらブレイクするかも」

*「犬用メガネって、もはや眼鏡屋の枠を越えちゃってるね」
それはそうと、そのときに「いやし会」から三ヶ月後、再び次の「いやし会」にて藤本氏とお会いしたときの、私と藤本氏のやりとりを聞いてください。

私「いや〜 藤本先生、ついにアイトピアが『大きいメガネ』を新聞広告でPRすることになりまして、
サンケイクリエイトさんという広告代理店さんの手引きで、産経新聞の一スペースに告知が載るんですよ。
これがその原稿ですが…(原稿を見せる)」
藤本氏「ああ、もう原稿が決まっちゃってたの。どれどれ…
うっ、これじゃまったく売れないと思うんだけど、ぜんぜんアピール力に欠けちゃってるね。
これ、岡本さんが原稿を書いたの?」
私「そ、それが、私がおもしろく楽しい文章を詰め込んだ広告の原案を書いたところ、父親からまたも文句が入りまして…
『なんやこれは、こんな広告出したらお金の無駄遣いやがな。お父さんにまかしとけ、まともな原案を作って決定しとくからな』
って言って、勝手に原案決めて出しちゃったんです…(シクシク)」

藤本氏「で、この広告を出して、効果というか、反響はあったの?」
私「それが… 『大きいメガネを作りましたので、ホームページをごらんください!』という内容の広告だったのですが、
そのホームページにアクセスカウンターをつけて見ていても、一件もアクセスがありませんでした。広告費丸損です…(ガクッ)」

藤本氏「こりゃもう、岡本さんはお父さんから独立してやるしかないだろうね……」
私「はい、それで、もう父には任しておけないということで、ホームページ作りを勉強し始めまして、
なんとか私の文章をネット上で書いてお客様集めができるようにと計画したのですが、そこでも…」

藤本氏「お父さんが文章書くっていって、息子さんに文章を書かせてくれないって? そりゃ困ったな…」
私「まあなんとか、企画力と文章の配置の順番なんかを活かして、できるところまでやってみます…」

そしてそれから、さらに3ヶ月が経ちました。
私「いやあ、ごぶさたしております藤本先生。さいきんようやく、アイトピアにお客様が戻ってきはじめまして。おかげさまで助かりましたですハイ」
藤本氏「そうかそうか、それはよかった! 一時はどうなることかと思ったけど、うまくいって何よりだよ」
私「それが、お客様が戻ってきたのは、私のアイデアによるのではなく、父親の思いつきによるものだったんですよ。
私がやった大阪地下街の地図のボランティア活動を見て思いついたようで、
父が『強度近視用のメガネ』を全国レベルで、我々の仲間の研究会を通して、全国のお客様にご紹介するというアイデアに発展しまして、
それをやったらとてもホームページの反応が良くなったんですよ。
『ホームページ見ましたよ。今日は強度近視のメガネを作って欲しいと思いまして』というお客様がドンドン増えてとてもいい感じです!」

藤本氏「なるほど、文章は岡本さんの書いたモノを使えなくても、商品を開発する企画力がとても強くなって、
お客様から見て圧倒的な魅力を感じるまでになったんだね。その努力がようやく実を結んだという感じかな」
私「さらに大きい眼鏡やパソコン用メガネなんかにも興味を持つお客様が増えてきまして、
どうやらお店に入ってきた人にお配りしているアイトピアのこだわりプリントを読んでいただいて、
それからホームページにアクセスするという順番でメガネを作っていただけるようになっているみたいです。
やっぱりドンドン文章を読んでいただいて、詳しく商品についてのご説明をするというのが、支持を集めるやり方のようですね」

*「というわけで、アイトピアはなんとか創業時以来の危機を脱したわけか。間に合って良かったね」
まったくですよ。場合によっては、『アイトピア閉店セール』をして、
固定資産税の少ない地域に引っ込まなければいけなくなっていたかも知れないのですからね。危なかったです。
ここまでで、アイトピアのまわりの多くの眼鏡店が、お客様アップに伸び悩んで撤退していきましたからね。
その中には昔ながらの眼鏡屋さんも入っていれば、今時の流行を意識したオシャレな眼鏡屋さんも入っていました。

*「他の、規模の小さな眼鏡店で、こういうやり方を取ったらうまくいかなかったっていう典型例みたいなのはあったの?」
それについては、次回にお話しいたしましょう。

*「それにしても、今回の文章はすこぶる長かった… 最後まで全部読めた人っているのかな」
それは私も、自信はないですね…(不安)
次回に続く

おもしろビジネス
のコーナーに戻る


トップページ
大阪フィリア
に戻る